遺言書の基礎知識

(1)遺言って何?

 私たち行政書士はよく「遺言書作成のサポートをします」とか、「遺言書作成のお手伝いをします」とか言っていますが、また、お客様はよく「遺言書を書きたいのだけれど…」とか「遺言書をいくらで作ってくれる?」とかご相談に見えますが、そもそも「遺言・遺言書って何?」と基本に立ち返って考えてみることが今までなかったなぁと反省している次第であります。そこで、今回相続法の改正を契機として、少し遺言や遺言書について考えてみたいと思います。

 遺言とは被相続人(相続される人=亡くなった人)自身が自らの財産(相続財産)の行方についてする最終の意思表示である、ということが言えます。この意思表示を文章にまとめたものが遺言書です。被相続人が死後に残す言葉、即ち遺言がその効力を発揮する時は既に当のご本人はいらっしゃらないので、それが果たして被相続人の真意に基づくものなのか等を巡って争いが起こり得ます。そこで、遺言に厳格な「方式」を定め、法律で定められた「遺言で定められる事項」について方式に則った遺言がなされる限り、その遺言の内容の実現を法的に保障しようとするのが日本の遺言制度です。

 民法は相続編の960条から1027条のなかで遺言について規定しています。ただこれ以外にも、いろいろな条文で遺言に関する規定が散見されます。例えば、遺言で定めることができる事項の中に「認知」というものがありますが、これは相続編ではなく親族編のなかの781条2項で「認知は、遺言によっても、することができる」として規定しています。

(2)遺言書で定めることができること・できないこと

 遺言で定めることができる事項は法定されているので、主なものを列挙します。但し条文は省きます。

〔相続外の事項〕認知、未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定

〔相続に関する事項〕推定相続人の廃除と排除の取り消し、祭祀主催者の指定、相続分の指定、遺産分割の方法の指定及び分割禁止、包括遺贈及び特定遺贈、遺言執行者の指定、等

 これに対して、遺言で定めることができない事項は、例えば誰が相続人となるのかを定めることや、相続人の相続財産についてその処分方法を定めること等で、法律上規定されていないので遺言では定めることができないとされています。しかし、これはあくまで法律上の効力がないということで、例えば「兄弟仲良くお母さんを支えるように」というような事柄は、確かに遺言としての法的効力は認められませんが、だからといって遺言書に書いてはいけないということではないと私は思います。むしろ遺族が故人の意思をできるだけ尊重しようとする場合、また故人が自分の遺志を遺族に正確に伝えたいと思っている場合には、それはそれで一定の意味を持つものだと思うからです。

(3)遺言についての基本的な約束事

 遺言はその方式について非常に厳格に規定されています。それは、遺言が効力を生ずる時、既に遺言者は他界しており、その時点ではもはや遺言者の意思を確認することができないからということは前に示した通りです。そこで遺言についての基本的な約束事を簡単に見てみましょう。

 遺言は、未成年者であっても、15歳以上の場合はすることができます。また、判断能力の弱い成年被後見人、被保佐人、被補助人でも遺言をすることは可能です。但し成年被後見人や未成年者が必要とされる意思能力を欠いていた場合、その遺言は無効とされます。特に成年被後見人は「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」と定義されているだけに、その方が一時的に事理弁識能力を回復した際遺言をするときは、医師二人以上の立会が無ければならないとされています。

 遺言は二人以上の者が同一の証書ですることができません。これを共同遺言の禁止といいます。遺言は単独の自由な意思のもとに行われなければならないことが理由にあるといわれています。

 また、遺言はいつでも撤回することができます。その方法はある程度自由で、新たな遺言書で直接撤回を述べても(遺言による撤回)、また旧遺言の内容に反する新たな遺言書を書くことでもできます(抵触遺言による撤回)。さらに旧遺言の内容に反する行為をすることも撤回とみなされることがあります(抵触行為による撤回)。公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできます。

 遺言について大雑把に見てきました。遺言・遺言書と法定相続との関係については法定相続をどのように理解するかによって解釈が変わります。例えば法定相続を被相続人の意思の推定だとする立場では、法定相続は被相続人の意思が明確でない場合の補完的制度だととらえられます。いずれにしろ、民法上は遺言が法定相続に優先するということ、しかし、そうした遺言も遺留分には勝てないということを覚えておいてください。

 

 

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